霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第1回

「オマエニハ、カンケイナイ!」占い館に現れた若い男性の首元には、女の長い黒髪がびっしりと絡みついていた……

霊能館公開

あまり思い出したくないんですが……今から2年前の夏の出来事です。その男性の名は仮にAさんとしておきます。彼とは占い館のブースで、占い師とお客様という形で顔を合わせました。年齢は28歳。長身で整った面立ちの人でしたが、憔悴した表情はまるで老人のようでした。そんなAさんが対面に座った途端、私は言葉に詰まりました。サマージャケットを羽織ったその首元に、長い黒髪がびっしりと巻き付いていたんです!同時に私の頭の中に、ゲラゲラと狂い笑う女の声が流れ込んできました。凍りついたこちらの様子にAさんもすぐ気づき、
「先生、やっぱり見えますか?」
「み、見えます……ご相談は……このことですか」
「そうです。表の看板に霊感占いってあったんで、思わず飛び込みました」

Aさんの話を要約すると、長く交際していた女と別れたところ、相手がストーカーのようになってしまった。しかし異常な付きまといも半年ほどで止み、やれやれと安心していたら、今度はその女が夜な夜な枕元に現れるようになった。もちろん、肉体を持った本人でないことは分かっている。たまらず女の携帯に電話したが、すでに解約された番号だった。住んでいるはずのマンションへも行ったが、部屋も引き払われていた。このままでは頭がおかしくなってしまう。どうすれば良いか、教えて欲しい──。そんな話を聞いている最中、彼の首に巻き付いている黒髪の一房が何度も私の方へ伸びてきました。そのたびに念の力を振り絞り、必死に振り払いました。

話を一通り聞いた後、自分の手には余ることだと即座に判断し、
「お察しの通り、その女性の生き霊の仕業です。ただ生憎、私は霊を見ることはできますが、祓うことまではできないんです」
と正直に言いました。そして「良い方をご紹介しますから、どうかそちらへご相談ください」と、知り合いのお寺さんの電話番号を伝えたのですが、実際に彼がそこへ行ったのかどうかを確かめることはできませんでした。というのも……Aさんに教えたお寺のご住職が、それから2週間後に急逝してしまったからです。死因は心不全。堂内での加持祈祷の最中に突然、倒れたそうです。

私の身にも異変がありました。Aさんからの相談を受けたその晩、ベッドの中で幽体離脱の状態に陥り、当の女がいる場所へ引き寄せられてしまったのです。そこはロウソクの炎だけが揺らめく暗い部屋。女は自分の腕をカミソリで傷つけ、流れ出した血を指ですくって、壁一面にAさんの名前を際限なく書き連ねていました。そして私の気配に気づいたのか急に振り返り、
「オマエニハ、カンケイナイ!」
と嘲笑うように吐き捨てました。真っ白い顔の中で、飛び出したふたつの目玉がギラギラと光る様が今も脳裏に焼き付いています。Aさんとはそれっきり。その後どうなったのかは分かりませんが、すでにこの世の人ではないような気がします。でも、あの女の方はまだ生きているはずです……。