霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第11回

「調理場のおばさん」料理店の調理場で忙しく動き回る割烹着姿の初老女性。その正体は……。

霊能館公開

霊感は昔からありましたね。十代の頃は金縛りにもよく遭っていたし、霊らしきモノも何度か見たことがあります。だけど、この前見たアレは何だったのかって、いまだに考え続けているのですが答えが出ません。私がアレを見た場所は、グルメ特集の取材で訪れたある洋食店。そこは戦前創業の老舗で料理の味も絶品で、地元では知らない人がいないくらい有名なのですが、3代目に当たる店主が昔気質の頑固な人でずっと取材を断られていたんです。もちろん小さなタウン誌だからということではなくて、東京のテレビ局やメジャーなグルメ雑誌の取材もはねつけたと聞いています。そんな取材お断りの店に今回もダメモトでアポの電話をしてみたら、何とあっさりOKの返事をもらいました。編集長は「4代目の若旦那が頑固親爺を説得したんじゃないか」なんて言ってましたが、真相は不明です。

そんなわけで約束の当日、私は少々緊張しつつ、カメラ片手に店へ伺いました。最初に店主にインタビューをして、それから名物のシチューやオムレツを実際に作ってもらい、隅のテーブルを借りて料理撮影をしていました。そこはちょうど調理場が見える位置だったのですが、何やら動き回る白い人影が目の端に入ってくるんです。店主から聞いたばかりの話では、調理場は3代目の父親と4代目の息子だけで切り盛りしていて、他にスタッフはいないとのことでした。その両人は少し休憩すると言って店の外へ出たばかりだったので、ちょっと気になって撮影の手を止め、調理場を覗き込みました。いつの間にかちょこまかと動き回っていたのは、白い割烹着を着た六十がらみのおばさんでした。

私は最初、店主の奥さんかと思い、「ご迷惑お掛けしています」と言いながら奥に向かって頭を下げました。しかし、こちらの挨拶は見事に無視。おばさんは私など眼中にないとばかりに、調理台の周囲をぐるぐる回り続けているばかり。そして時々、鍋の蓋を開けたり、冷蔵庫を開けたり、とにかく見れば見るほど行動が怪しい……。掃除しているのでないことはもう明らかなんです。
(なんじゃ、この人?)
と首をかしげながら、おばさんの謎の動きを眺めていると、やがてその足がぴたりと止まりました。そこはオーブンの前でした。何とおばさんは業務用オーブンの重そうなドアを開けると、まず内部へ頭を突っ込み、そして見る間に体全体を潜り込ませてしまいました。こちらは見ている光景が信じられず、ただ口をポカンと開けているだけでした。やがて、ドアが開いたままのオーブンの中からお経とも呪文ともつかぬ気味の悪い声が響いてきました。きちんと聞き取ることはできませんでしたが、「しかばね」とか「地獄」とか「鬼」とか不吉な単語が沢山混じっていたように思います。私はもういたたまれなくなって、店主たちの帰りも待たず早々に店を飛び出しました。アレは一体なんだったんでしょうか……。