霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第12回

「先客のスギハラさん」霊の姿が見えるスナックのママ。彼女は誰もいないカウンターに水割りのグラスを置いて……。

霊能館公開

以前、仕事帰りに行きつけにしていたスナックのママが、いわゆる見える人でした。年齢は知りませんが、とても若々しくて綺麗な女性でした。昔は占い師みたいな仕事をしていて、その時に霊能者の修行も積んだと言っていました。普段はスピリチュアル的な話なんかは一切しないのですが、悩み事を抱えている常連なんかがいると、よく霊視でアドバイスしてくれてましたね。また、そのアドバイスが凄く当たっていて、おかげで離婚を回避できた人や仕事の行き詰まりを解決できた人なんかを何人か知っています。

その晩も、そんな不思議ママの店に午後十時過ぎに到着しました。カウンター席には誰もいなくて、ママは私の顔を見ると「いらっしゃい。今日、2人目のお客様ね」と言いながら、にっこり微笑んでくれました。私が「先客がいたの?」と訊いたら、「今もいるわよ」と言ってカウンターの隅を指差しました。見るとそこには、汗を掻いた水割りのグラスが置かれていました。先客はトイレかなと思ったのですが、私の前にグラスとオツマミが置かれ、一杯目を飲み終えておかわりを頼んだ頃合いになっても、まだ姿を現しません。その間、ママは氷の溶けたグラスを下げ、作り直した水割りをまた同じ所へ置いていました。さすがにピンと来まして、
「もしかして先客って幽霊?」
と恐る恐る尋ねると、ママはコクリと頷きました。
「スギハラさんって言う方なの。悪い人じゃないから恐がらないでね」
私は半信半疑のまま頷き返しました。と、その瞬間、ピキッという小さな音が響き渡りました。見ると目の前のグラスに真っ直ぐなヒビが入っていました。同時にママの顔が青ざめました。

「ご、ごめんなさい。スギハラさん、あなたのことを妬いているみたい。さっき悪い人じゃないって言ったけれど、取り消すわ。カズちゃん、今日はもう帰った方がいい」
血相を変えてそう言うので、私は素直に席を立ちました。霊が実在するかどうかはともかく、いつもは明るい店の雰囲気がその時だけはどんよりと重くてちょっと気味が悪かったんです。それで、その晩が私の店通いの最後になりました。三日後、スナックが入っていた建物が不審火で全焼してしまったんです。ママも行方不明になりました。火災からしばらくして、彼女と一番親しかった常連客が自宅へお見舞いに行ったそうですが、すでにマンションの部屋は引き払われていたそうです。その話を見舞った当人から直接聞いた時、ママから最後に送られてきたという携帯メールも見せてもらいました。そこには一言、
「スギハラさんと行きます」
と書かれていました。
「スギハラさんって誰か知ってる?」
と訊かれましたが、私は何も答えることができませんでした。ママは今も、スギハラさんと一緒にいるということなのでしょうか……。