霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第14回

「ロウソクをください」朝モヤの中から忽然と現れた老女。その手には菊の花束と線香が握られていた……。

霊能館公開

私の実家は代々続く古いお寺で、父も兄も僧侶です。私は大学から東京へ出てそのまま都内の会社に就職したのですが、不運にも昨年リストラに遭ってしまい、今は実家暮らし。お寺の仕事を手伝いながら、何とか地元で再就職できないかと色々当たっている最中です。そんなある日の早朝、兄と一緒に境内の掃き掃除をしていると、急に背後から声を掛けられました。時刻は午前6時、辺りには白い朝モヤが垂れ込めていていたのですが、その中に小さな人影がぼんやりと佇んでいたのです。

それは白い和服を着た七十代くらいの老婦人でした。こちらが振り返ると丁寧に頭を下げられました。とても上品な物腰で、どこかのお金持ちの奥様という風情でした。彼女は片手に黄色い菊の花束、もう片方にはお線香を持ち、これからお墓参りをするという出で立ちだったのですが、こんな朝早くから墓参する人がいるとは思いもしなかったので、ちょっと驚きました。自分自身も十八歳までお寺で育ったので昔なじみの檀家の人の顔はだいたい覚えているのですが、その老婦人には全く見覚えがありませんでした。慌てて挨拶を返したものの、そのままきょとんとしている私に向かって、老婦人が言いました。
「すみません。ロウソクを忘れてきたもので、一本いただくことはできますでしょうか」
私はすぐに本堂に行き、手近なロウソクを持って戻りました。それを相手に渡すとまた深々とお辞儀をされ、そのまま老婦人は墓地がある奥の敷地へ去っていきました。その後ろ姿をぼんやりと見送っていると、本堂の裏の掃除を終えた兄が戻ってきました。
「今ね、お墓参りのお婆さんが来てね……」
と、私は今しがたの出来事を話そうとしたのですが、途端に兄の顔が真っ青になりました。
「おまえはここで待ってろ!すぐ住職を呼んでくるから!」

兄が父を連れて戻ってきました。そして、その足でまっしぐらに墓地へ向かいました。父はあるお墓の前まで来るとそこで足を止め、「ああ、まただ……」とうんざりした声を上げました。そのお墓は異様な事になっていました。私が渡したロウソクは何故か墓石のてっぺんに立てられ、赤々とした炎を燃やしていました。そしてその周囲には引きちぎられた菊の花びら、さらに火が点いた線香が散らばり、もうもうとした煙を上げ……。
「お、お父さん、これどういうこと!」
「おまえがロウソクを渡した婆さんな、人間じゃないんだよ。」
「う、嘘!」
「理由は全然分からんが、数年にいっぺんくらい必ずウチの寺へ来るんだ。このことは今まで芳恵に言ったことはなかったがな。」
その日の昼になり、お墓が荒らされた家のご主人が仕事先で急死したという知らせを受けました。兄の話では、あの老婦人が悪さをした墓の持ち主の家からは必ずその日のうちに死人が出るそうです。
「あの婆さん、たぶん死神の類だろうな。しかし、どういう因縁でウチに来るんだか……。」
最後に暗い顔で兄がそうつぶやきました。