霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第18回

「真っ赤なテント」人気のない山道の傍らにふと見つけた不審なテント。突然、その中から若い女が顔を出して……。

霊能館公開

霊能力って言うんですか、そいつのおかげで若い頃から色々なのを見てきました。まあ、大抵は害のないヤツばかりで、「霊だ、祟りだ」と世間ではよく恐がりますが、実際には死んじまった人間っていうのは大したことはできないんですよ。幽霊っていうのは、その人が生きていた頃のエネルギーがこの世にわずかに残っていて、たまたまそれと波長が合ってしまうと目に見えたり、声が聞こえたりするっていう程度のもんなんじゃないかな。

ただし例外もありますよ。「人の恨みは恐い」って言いますけど、生きている人間の強い恨みや妬みの感情が凝り固まった物、いわゆる生き霊っていうヤツはかなり危ないです。私も今までの人生で、生き霊の祟りというのを何度か間近に見てますが、あんなのに取り憑かれたら本当にろくなことにはなりません。

この間も、久々に恐い思いをしました。自然の緑を撮影しながら奥秩父の山の中を歩いていた時に、途中の窪地みたいな所で真っ赤なテントに出くわしたんです。その辺はただの山道と森が続くだけでとくにキャンプに適しているわけでもないし、眺望が良いわけでもない。というか見通しはかなり悪い。何よりも血の色みたいなそのテントから、凄く嫌な霊気が漂っていました。触らぬ神に祟りなし。「こりゃ、やばいな」とすぐ思いまして、知らぬ振りして通り過ぎようとしたんです。そうしたら突然、テントの入り口がめくれ上がって、中から誰かが顔を出してきました。服装までは分からなかったけれど、ショートカットの若い女でした。顔が能面みたいに真っ白でね、テントの布の赤色との対比で余計に青白く見えました。

こっちが唖然としてるとその女は、「おじさん、アタシが見えるのね?」といきなり話し掛けてきました。この台詞、霊感のある人間に対してアチラさんが訊く常套句ですからね、ああ、やっばりコレはこの世のモノではなんだと確信して一目散にその場を逃げ出しましたよ。そうしたら私の背中に向かってさらに女の絶叫が響いてきて、「コンドウテツヤに言っとけよ!絶対、ぶっ殺してやるからな!」と。

幸い女が追ってくることはありませんでしたが、とにかく気味が悪いので予定を早々に繰り上げて下山しました。するとその夜、退職した会社の元同僚から電話が来たんですよ。現職時代、私の下で働いていた営業の男が交通事故で急死したという報せでした。もう察しがつくと思いますが、そいつの名前がコンドウテツヤです。仕事はできる男でしたが病的なほど女癖が悪くて、何度か素行を注意したこともあります。私が昼間、山の中で見たアレはコンドウに騙されて捨てられた女の一人だったんだな、とすぐに合点しました。

大人げなくて申し訳ないんですが結局、体調が悪いと嘘をついて、お通夜と告別式への出席は辞退させてもらいましたよ。だって仮にも部下だった男の祭壇の前で、あの女の生き霊がゲラゲラ笑っている光景なんか見たくないでしょう?