リレー怪談~占い百物語~

一人が話を語り終えると、その知り合いがお題を引き継いでまた語るリレー方式の百物語。そしてそれを語るのは、いずれも現役の占い師たちです。もちろん、ここでご紹介する怪奇談の全ては、彼らが実際に体験した実話ばかり。

第2回

ヒノエウマ

霊能館公開

丙午の年に生まれた女は、男を喰い殺すという迷信があります。十干十二支の干支の中で丙と午はともに五行の陽火に属するため、それが重なった丙午生まれの人は燃え上がる火炎の性に生涯を支配され(つまり人一倍情熱的で気性が激しく)、とくに女性の場合は結婚すると夫を尻に敷き、最後には相手の命まで燃やし尽くしてしまうというのです。

占術家の立場から言わせてもらうと、丙午に限らず生まれ年の干支が単独して個人の命運や性格に影響を与えるということはまずありません。私が鑑定で使う四柱推命では、その人が生まれた年月日、さらに誕生時間の干支が表す陰陽五行のバランスに基づいて運勢を見るのですが、その場合も生まれた年の干支はあくまで生まれ日の干支との関係性からその吉凶を判断するだけです。だから当然、同じ丙午年に生まれても命運と性格は千差万別となるのです。

ただし生まれた日の干支が丙午となると、それは全く別の話になります。生まれ日の干支、とくに干の方は自分自身を表すため、丙午の持つ本来の象意が強く出てしまいます。この生まれの人は男女に関わらず非常にタフで打たれ強いので、とくに自営業や経営者などになると成功しやすいのですが反面、周囲の人々を自分の支配下に置こうとするため、とくに身近な対人関係や恋愛、結婚生活などが上手くいかない傾向が強くなるのです。占い師によっては「丙午日生まれの女は、本当に男を喰い殺す」と言う人もいるくらいです。

じつはつい先日、この丙午が関わる相談を受けました。鑑定を受けにいらしたのは都内の繁華街で三軒のクラブとスナックを経営している遣り手の美人ママで、店のホステスさんの中に問題のある女性がいて悩んでいるとのことでした。
「その子はね、私よりも年上の丙午生まれなの。だからもう五十近くっていうことになるんだけど、最近よく言う美魔女っていうの?とにかく見た目が奇跡的に若くて、三十代の前半、いや下手したら二十代の終わりくらいでも通用するくらい。しかも女優並の綺麗な顔立ちで性格も良いときているから、彼女目当てで通い詰めてくれるお客さんが急に増えだしてね、良い人が来てくれたなってすごく喜んでたのよ。でもね、そのうちに何だかおかしなことになってきたの」
ママが言うには、その女性目当てに通ってくる常連客が次々と死んでしまうのだというのです。
「もちろん最初のうちは偶然だと思ったわよ。でもね、そのうちに毎月、三度も四度も常連さんのお葬式に出るようになって、さすがに気持ち悪くなってきちゃったの」
「その人たちの死因は?」
「ほとんどが心臓発作とかの突然死。あとは車の事故に遭って死んじゃった人とか。死ぬのが年寄りばかりならまだ納得できるんだけどね、若い人も次々と死んじゃうのよ。この前、亡くなった部長さんはまだ四十そこそこだったわ。前の晩まで元気溌剌としてたのが、次の日に脳出血でバッタリ……」

私は四柱推命の命式を作るため、その女性の生年月日を訊ねました。すると「生まれた時間もだいたい分かるわよ。その子、本名は真昼って言うんだけど、前に名前の由来を聞いたら、昼間の十二時頃に生まれたからだって言ってたわ」と。

命式を作ってみると、生まれ年が丙午、生まれ月が甲午、生まれ日が丙午、生まれた時刻が甲午。甲は陽木の五行で火の燃料となり、まさに四柱に炎が燃え盛る特殊な命式でした。
「辞めてもらうとかは考えていますか」
「できればそうしたいんだけど、彼女の出勤日とそうでない日には売り上げに倍以上の差が出るの。このご時世でうちも経営が苦しくて、それで迷っちゃって」
その後もしばらく相談は続き、最終的に私は「これは占いの守備範囲を超えている」という結論に達しました。しかしせめて真相が知りたいというママの願いに応え、彼女が経営するクラブへ客を装って出掛けてみることになったのです。同行してくれたのは古い知り合いの同業者の男性でした。彼は非常に強い霊感の持ち主で、前世や守護霊などを見ることができる人です。

店に入って席に着くと、問題の女性が私たちのテーブルへ来てくれるのを待ちました。一時間近く待ち、ようやく本人がやって来たのですが、ほとんど挨拶だけですぐに去ってしまい、入れ替わりにママが顔を出しました。「何か見えた?」と耳打ちされたものの、頼みの綱の彼は「うーん」とうなるばかり。そのうちに「トイレへ行ってきます」と言って席を立ちました。そして再び戻って来ると、
「色々分かりましたが、ここでは言えません。今日の深夜か明日、星華さんを通して僕が見た物をお伝えします」
そう言うなり、私の手を引いて店を出てしまったのです。

帰り道に寄った喫茶店で青ざめた顔をした彼が話すには、
「あの女、ただの入れ物だよ。中身は全然別の物。霊に取り憑かれた人を、偉い坊さんとかが祓って追い出すとかあるじゃない。でもね、ごく稀にできないこともあるんだよね。本人の魂が抜かれて、別の物と入れ替わっちゃっている場合」
「えー!そんなことってあるの」
「うん。それで今ね、あの女の中には五人の別の女が住んでいるんだ。全員、色恋のもつれや金のもつれで男に焼き殺されちゃった女。そいつら、一人につき十人の男を祟り殺すって言ってた。だから、合計で五十人死んだら終わるんじゃないかな」
「一体いつ、そんなこと知ったのよ」
「店でトイレに入った時、そいつらに取り囲まれて直接言われたよ。あとね、コンドキタラ、オマエモコロスゾって焼け爛れた顔で脅された。だから僕、この件からはきっぱり手を引かせてもらうよ」
深夜過ぎにママの方から連絡があったので、彼が言った通りの内容を正直に伝えました。すると、ろくに返事もくれず不機嫌な感じで通話を切られてしまいました。その間際、ゲラゲラと笑う複数の女の声が聞こえたような気がしたのですが、あれは幻聴か何かだと自分に強く言い聞かせています。