男と女のドロドロ心霊体験

二十年以上にわたり、様々な悩み相談に携わってきたベテラン女性霊能者が、男女関係にまつわる不思議な話や恐怖の霊体験をご披露します。この世に男と女がいる限り、愛憎のトラブルが尽きることはありません。

第6回

「待ち続ける男」

霊能館公開

里佳子さん(仮名)は結婚して1年足らずの新婚主婦。旦那さんは寿退職した会社の元同僚で、若干20代で課長職に昇った、とても優秀な開発職のサラリーマンとのことでした。勤め先は中規模ながらも安定した同族経営のメーカー企業で、なおかつ旦那さんも社長一族の縁戚ということもあり、将来は安泰と思われたのですが、思わぬところからその幸福に亀裂が生じ始めたそうです。

きっかけは結婚式にも出席してくれた、大学時代の男友達からかかってきた1本の電話でした。
「あのさ、こんなこと話して良いのかどうか迷ったんだけど、じつはつい昨日の夜、偶然、健夫と会ったんだよ」
健夫というのは、里佳子さんが以前つき合っていた男性でした。元々は大学時代に入っていた音楽サークルの後輩で、卒業後も3年近く交際が続いたのですが、いつまで経ってもフリーターのままで腰の落ち着かない相手を見限り、彼女の方から別れ話を持ち出したのです。現在の旦那さんと付き合いだしたのがその直後だったため、一部の友人や知人たちの間で
「稼ぎの問題で恋人を捨てた打算的な女」
と陰口を叩かれていることは里佳子さん当人も十分に承知していました。
「私、気にしていないからそんな気を遣った言い方しなくて良いよ。それで、健夫君はどんな様子だった?」
「それがさ、夜の7時過ぎに渋谷のハチ公の前で出くわしたんだけど、すごく上機嫌でさ。『ここで里佳子と待ち合わせている』って言うんだよ。な、おかしいだろう?勘ぐるようなこと言って失礼とは思うけれど、まさか、おまえら今でも2人で会ってるの?」
「まさか、そんなことあるわけないじゃん。彼とはきちんとお別れしたんだから」
男友達との話はそこで終わり、モヤモヤとした気持ちを抱えながら里佳子さんは電話を切りました。

渋谷のハチ公前というのは、里佳子さんと健夫さんがよくデートの待ち合わせに使っていた場所でした。どうして嘘をついたのか?もしかして自分への嫌がらせをしているつもりなのか?などと最初のうちは疑心暗鬼だったそうですが、そのうちに心を病んでいるのでは?と少し心配になり、今度は彼女の方から先の男友達と連絡を取りました。健夫さんが今、どうしているのか、さりげなく本人に訊いてみて欲しいと頼んだところ、すぐに折り返して電話があり、以前の携帯番号がもう使われていないことが分かったのです。その後、彼女は健夫さんがやっていたSNSを調べてみました。しかしfacebookやtwitterのアカウントはすでに削除されており、何の手掛かりも掴めませんでした。そこで勇気を奮って、今度は健夫さんが両親と住んでいる実家に電話してみたところ、応対に出た彼のお母さんから仰天するような事実を聞かされたのです。
「あなたとお別れした後、健夫もちゃんと就職して結婚したんですよ。今は大阪に引っ越して綺麗な奥さんと幸せに暮らしています。ですからどうかご心配なく」
嫌味の篭もった口調でそう告げられると、一方的に電話が切れました。

こうなると、初めに健夫さんのことを教えてきた男友達が嘘を言っていることになる……そう思い始めた矢先、ちょうど旦那さんが帰宅したのですが、その姿を見て言葉を失いました。顔の半分が酷く腫れ上がり、着ているスーツもボロボロになっていたのです。
「渋谷でチンピラみたいな奴に絡まれてさ、本当に酷い目に遭ったよ」
グッタリとした様子で彼が言うには、帰りがけに同僚とお酒を飲んだ後、最寄りの渋谷駅へ向かっていたところ、ハチ公前の付近で大柄な男と肩がぶつかり、因縁をつけられて一方的に殴られた。警察が駆けつけた時にはすでに相手の姿はなく、被害届を出すことを勧められたが、会社への聞こえが悪いので断ったのだと。旦那さんに聞いた限りでの相手の風体や容貌は、健夫さんのそれに酷似していました。思わず背筋に冷たいものが走り、男友達が嘘をついていないことを直感したそうです。
(あのお母さんの話はデタラメだ!健夫君はまだ東京にいる。それで私に復讐しようとしている……)
さんざん思い悩んだ挙げ句、彼女は両親からお金を借りて、興信所に調査を依頼しました。しかし、上がってきた調査報告書には健夫さんのお母さんが話していた通りの事実が書かれていただけでした。

「怖くて、気持ち悪くて、もう頭がおかしくなりそうなんです。それで先生みたいな方なら、何か分かるんじゃないかと思ってご相談させていただきました」
震えながら話を終えた里佳子さんをなだめ、その場で霊視を試みました。結果、意外な状況が見えたのですが、それについては当人に話すことができず、
「あまり良く見えませんでした」
と誤魔化すしかなかったのです。その後、数回にわたって意識浄化の念入れを繰り返してみたもののほとんど効果はあらわれず、最後に顔を見せた時には、
「使われていないアイツの携帯から、真夜中に無言電話が来るようになりました。私、もう限界です」
と、憔悴しきった顔で告げられました。以来、音信は途絶えたままです。私の透視ビジョンに映ったのは、ハチ公前に立ち尽くしている健夫さんの生き霊の姿でした。しかしそれは本人が飛ばしているのではなく、何と被害者であるはずの里佳子さん自身が無意識のうちに作り上げたものだったのです。自分から振っておきながら、じつは彼女は今でも健夫さんを深く愛しており、しかもそのことに気づいていないのです。女心は複雑と申しますが、時にはそれが思いも寄らぬ霊障を引き起こすという、そんな実例をご紹介させていただきました。

【教訓】
打算優先の結婚はどこかで必ず綻びが生じる。時には自分の無意識下の良心が、思わぬ敵となることもある。