霊感恐怖夜話
~霊能者が体験したコワい話~

霊能者が体験した、悪霊、怨霊、因縁などにまつわる恐怖の実話をお届けいたします。

第16回

「落とし物」道端で見覚えのない箱を差し出してきた、奇妙な中年女の目的は?

霊能館公開

今から二年前の夏の日の出来事です。当時、同居していた祖母が心臓を悪くして入院していまして、私と母が毎日交替で身の回りの世話をしに病院へ出向いていました。祖母が入院している病院は、我が家から駅3つ離れた場所。私はいつものように最寄りの駅まで徒歩で向かっていました。気温が35度越えの猛暑日でした。その茹だるような炎天下の中、人気のない舗道を歩いていると突然、背後から誰かに声を掛けられました。
「奥さん、落ちましたよ。」
振り返るとそこには、私より十歳ほど年上に見える中年の女の人が立っていました。真っ白いワンピースに身を包んだ、綺麗な顔立ちの人でした。私は反射的に、
「ありがとうございます」
と言って彼女が差し出してきたモノを受け取ろうと手を伸ばしたのですが、すぐに自分の持ち物ではないことに気付きました。それは一辺が15㎝ほどの小さな正方形の木箱でした。
「あ、私のじゃありません」
そう言って軽く掌を横に振ると、相手の女性は首をかしげて、
「でも今、あなたのバックから落ちてきたんですよ。」
と言うのです。
「え?そんなはずはないですが……。」
私が持っていたトートバックには祖母の下着の着替えなどが入っていたのですが、ファスナーはきちんと閉まっていて、そこから何かが落ちるなんてことは絶対にないのです。何より木の箱なんて入れてきた覚えがありません……。不審を感じつつ女性の顔を見返しました。彼女は箱を差し出した姿勢のまま、微動だにしません。そのまま、数秒見つめ合っていたでしょうか。次第に女性の唇の両端が釣り上がり、笑いを噛み殺したような表情が浮かんできました。さらに、
「何、言ってんの?これあんたのだよ。あんたのバッグから落ちてきたんだよ!」
と、急にぞんざいな口調になり、無理矢理に私の胸元へ箱を押しつけてきたのです。私は咄嗟に相手の手を払い除けて、一歩退きました。パキンッという音がして、箱が舗道に落ちました。その拍子に蓋らしき面がはずれ、白い灰のようなものが外へ溢れ出してきて……。

(もしかして……これって……お骨の粉?!)

驚きながら再び目を上げると、女は霧のように消えていました。

(に、人間じゃない!)

私は悲鳴を噛み殺しなから一目散にその場を走り去り、大通りへ出るとすぐにタクシーを拾いました。嫌な胸騒ぎを押さえながら病院に到着して病室棟へ向かっていると、看護士さんたちがベッドに寝たままの祖母を廊下へ運び出している光景が目に飛び込んできました。慌てて訊ねると、ICUへ入れるとのこと。昼食後しばらくしてから容体が急変したそうです。幸い一命は取り留めましたが、もし私があの箱を受け取っていたら、そのまま祖母は帰らぬ人となっていたのではないかと考えています。この話は家族の誰にもしていません。話したら、道端で再びあの女性に出会うような気がして、とても怖いのです。あれは一体何だったのか……不可解で不気味な体験でした。