「ご降臨」日課にしているランニングの途中、寂れた神社の境内で休憩していると巫女姿の女性が目に留まり……。
私が昨年の夏に見た霊の話です。場所はランニングコースの途中にある、人気のない稲荷神社。そこの境内にあるベンチを、たまに休憩所として使わせてもらっていました。
その日の朝もいつものように家を出て、軽く汗を掻きながら神社へ到着。すると、本殿の階段の辺りに白小袖に緋袴の人影が見えました。
「ここ、社務所もないし無人の神社かと思ったけれど、ちゃんと管理する人はいるんだなぁ」
そんな感じで最初はとくに不思議とは思わなかったのですが、その女性が私に気付いて近づいてくるにつれ、異常な状況にようやく気付きました。一言で言うと、その巫女さんは宙に浮いていたのです。
「ヤバイ!?」
私が慌てて立ち上がった時には、相手はもう目の前にいました。そしてニッコリと笑いながら、
「オリマスルガ、ヨイカエ。オリマスルガ、ヨイカエ」
と同じ問い掛けを2回繰り返したのです。私は震えながらコクリとうなずき、慌ててその場を逃げ出しました。境内を遠く離れながら振り返ってみると、すでに巫女の姿は消えていました。
同じ日の午後、女子校時代の同級生とファミレスで会いました。自分が遭遇した出来事を話すと
「それってさ、もしかしてそこの神社の神様じゃないの?」
と、その子は目を輝かせました。元々、占いやスピリチュアル系の話が大好きで、いつもパワーストーンのアクセを身に着けているような子だったこともあり、想像以上の食いつき振りで
「この際だから霊能者に見てもらおうよ!」
「イヤだよー。高いお金取られるんでしょう」
「電話占いだったら、そんなにお金掛からないよ」
曰く、霊能占い専門の電話相談があるとのことで、大半は眉唾だが中には本物もいるのだと。
「じつは私、すごい先生知ってるんだ。何なら鑑定料金もオゴってあげるからさ、すぐに霊視してもらおうよ!」
押し止める私を無視して、その子は勝手に事を進めました。やがてその霊能者と電話がつながり、スマホを耳に押しつけられて仕方なく事の次第を話していると、いきなり血相を変えたような声で警告されました。
「詳しく説明している時間はありませんが、とにかくそれは危険です!すぐにその神社へ戻って、『降りないでください』とお祈りしてください!」
わけの分からぬまま、同級生と一緒に現場へ戻りました。彼女が運転する車を降りて恐る恐る境内に入り、言われた通りにお参りをしたのです。すると突然、背後から大きな笑い声が響いてきました。
狂ったようにゲラゲラ笑っていたのは、車内に残っていた同級生でした。すぐに駆け寄って「どうしたの!」と声を掛けると、開いた車窓越しその顔が見えました。青ざめて白目をむいた形相は全くの別人のようでした。
「オリマシタゾエ」
甲高い声でそう叫ぶなり、車が急発進して電柱に激突。幸いその子は一命を取り留めましたが、いまだに当時の記憶はないそうです。霊の正体も分からずじまいで、以来その神社付近には一切近づいていません。