リレー怪談~占い百物語~

一人が話を語り終えると、その知り合いがお題を引き継いでまた語るリレー方式の百物語。そしてそれを語るのは、いずれも現役の占い師たちです。もちろん、ここでご紹介する怪奇談の全ては、彼らが実際に体験した実話ばかり。

第1回

恋人のカードと死神のカード

霊能館公開

私がこれからお話しするのは、まだプロに成りたての頃、今から十年くらい前に実際に起きたことです。当時は都内にあるチェーンの占い館に所属し、週四くらいのペースで仕事をしていました。お客様のほとんどは十代後半から三十代の未婚女性で、相談内容も恋愛と結婚、それと人間関係の悩みなどが多数を占めていましたね。たまにリピーターになってくださる方もいらっしゃいましたが、ほとんどは一見のお客様でその後、再びお会いするということはありませんでした。

そんな私の数少ないリピーターの中に、A子さんという人がいました。年齢は二十七歳。千葉にある金融関係の会社で派遣として働いているという方で、過去に離婚歴があるとも聞いていました。A子さんは少なくとも月に一度、多い時には隔週のペースで私を指名してくださって、いつも時間延長をしてご相談に乗っていました。占い師の側にしてみれば、ちょっとした上客だったわけです。ただし、その相談内容はいつも同じ。職場の同僚男性に片想いをしていて、その男性がなかなか振り向いてくれないのが悩みの種で、彼は今どんなことを考えているのか、どうしたらこちらに気持ちを向けさせることができるのかといったことを毎回のように訊ねられました。四柱推命とホロスコープの命式で見る限り、あまり縁の深い関係とは思えなかったのでそのことも正直に申し上げたのですが、それでも彼女の方は男性を運命の相手と信じて疑わず、自分に対する彼の心境に何か良い変化は起きていないかとその都度、細かく訊いてくるのです。占いというのは多分にカウンセリングの要素を含んでいますが、A子さんと接するときはそれがとくに顕著でした。鑑定時間のほとんどを使って一方的に彼女の話を聞き続け、最後にタロットで相手の状況や気持ちの変化などを探る、ということの繰り返しになっていました。

そして、A子さんから八回目の指名を受けて鑑定に臨んだときです。その日も一時間近くにわたって問題の男性に関する愚痴めいた話を聞き続け、最後にタロットで占いました。大アルカナの22枚を使ってケルト十字でスプレッドしたところ、九枚目のカードは恋人の正位置、最終結果の十枚目には死神の正位置が出ました。このスプレッドで九枚目のカードというのは質問者の願望や無意識の恐れなどを意味するのですが、それが恋人のカードというのはまさに的を射ており納得できました。ただ、最終結果の死神のカードがいけませんでした。多少でもタロットを学んだことがある方はお分かりになると思うのですが、死神が出たからといって即、死や破滅などの不吉な出来事が起きるというわけではなく、多くは膠着していた問題に決着がついたり、またはそれが突然停止したり、ときにはその後の新たな出発や再生についても暗示しているカードなのです。しかし、A子さんは死神のカードが出てしまったことをひどく気にして、見る影もなく落ち込んでしまいました。むろんこちらも精一杯フォローしたのですが、最後は肩を落としてブースを出る彼女をただ見送ることしかできませんでした。

それからわずか一週間後、またもやA子さんから指名を受けました。椅子に座るなり彼女は
「先週、死神のカードが出たけれど、先生が言っていた通り、私の身に不吉なことは起きませんでした。」
と、とても明るい顔で言いました。
「それどころか、とてもハッピーなことが起きたんです!」
「どんなことですか?」
「憎い恋敵が死んだんです!」
一瞬、言葉に詰まりました。そして少し間をおいて、目を爛々と輝かせて微笑むA子さんに、
「それは一体、どういうことでしょうか……?」
と恐る恐る訊ねたところ、
「前に先生、彼はとてもモテるタイプで社内にライバルが大勢いるって、言ってましたよね?」
「はい。確かにそう言いました。」
「その一人がつい三日前に交通事故で死んだんです。死神のカードは彼女の死を意味していたんですね。やっぱり先生の占いは当たりますね!」
平然とした顔でそう言い放つA子さんのことが、急に恐ろしくなりました。うかつにも今まで気がつかなかったが、この女性には凄まじい狂気が潜んでいる!茫然とする私に、A子さんは「またタロットで占って欲しい」と言ってきました。気が進まぬままカードを手に取り、シャッフルを終えてスプレッドした私は、思わず息を呑みました。あろうことか、再び同じ位置に死神と恋人のカードが出たのです……。
「わぁー!まただわ!また、ライバルが減るんですね!」
返す言葉が見つかりませんでした。先週とは打って変わり、意気揚々とブースを出る彼女の後ろ姿を密かに身震いしながら見送りました。彼女が去った後、一人になった私は試しにタロットをまとめ直してシャッフルし、その中から二枚を引き出してみました。出たのは、またもや恋人と死神のカードでした。我が目を疑いながら、今度は78枚のフルデッキで占い直しました。(こんな偶然あるはずがない)自分にそう言い聞かせながら、めくったカードはやはり恋人と死神。急に激しいめまいと吐き気に襲われ、その日はそのまま仕事を早引けしました。

幸いなことにその日を境にして、A子さんからの指名はぱったりと途絶えました。さらに半年ほど経って私はそれまでの占い館のブースでの仕事を辞め、別のプロダクションに移籍することになりました。そして最後に事務所へ挨拶に行ったとき、スタッフの人から預かっていた手紙を手渡されたのです。封書に書かれた差出人の名は、A子さんでした。
「先月、彼と婚約しました。あれからまた邪魔な女が二人死んで、彼はようやく私に振り向いてくれたんです。全部、先生のおかげです。タロットのパワーに感謝してます!」
文面に彼女の笑顔が重なり、危うく気を失いそうになりました。いまだに忘れられない恐ろしい記憶です。