リレー怪談~占い百物語~

一人が話を語り終えると、その知り合いがお題を引き継いでまた語るリレー方式の百物語。そしてそれを語るのは、いずれも現役の占い師たちです。もちろん、ここでご紹介する怪奇談の全ては、彼らが実際に体験した実話ばかり。

第3回

蛇霊の主

霊能館公開

テレビ番組やビデオなどでタレントや有名人が、心霊スポットへ出掛けて体験レポートをするという企画がありますが、その際には霊能者が同行するというのが一種の決まり事になっています。現地で「あそこに霊がいます」と指差したり、必要に応じてお祓いをしたりして番組を盛り上げる役の人々です。そうした出演者はある程度名前の知れた人物、悪く言えばタレント的な霊能者が選ばれることが多いのですが、実際にその人達に除霊を行うほどの能力があるかと言えば、残念ながら甚だ疑問です。霊を見たり感じたりするくらいはできるのかもしれませんが、それを祓うとなると話は別です。密教式にせよ神道式にせよ、古来の秘儀に属する修行をきちんと修めた者でなければいわゆる霊障の類を祓うことはできません。そのため制作サイドは万が一に備えてタレント霊能者とは別に、しっかりとした実力を持つ別の霊能者や祈祷師などを撮影地へ連れて行くことがあります。もちろん彼らは画面には一切出ないので、視聴者もその存在を知らないわけですが。

かく言う私も以前、そうしたお仕事をさせていただいたことがあります。その頃、お世話になっていた知人から依頼されてテレビ番組の制作会社へ出向きました。そこでスタッフの方から詳しい内容を伺ったところ、当時売り出し中だった女性タレントと男性芸人数名が、幽霊が出ると噂される某地方のホテルの廃墟へ出向いて体当たりレポートをするという、よくあるコーナー企画でした。当日は美人霊感占い師も同行することになっていましたが、その人は芸能プロダクションに所属している言わばお飾りの霊能者で、「不慮の事態が生じた時に彼女では対処できないので、ぜひお願いします」と丁寧に頭を下げられました。

当日は全員がマイクロバスで移動し、午後遅くに現地へ到着してすぐにカメラ撮影が始まりました。もちろん無断で侵入したら法に触れますから、あらかじめ地権者の了解を取った上での合法的なロケです。タレント達が建物の前でひとしきりトークを展開した後、現場を仕切るディレクターさんが私に話し掛けてきました。
「どうですか。ヤバイ感じはあります?」
その時すでに周囲の霊視を終えていたので、恐らく危険なことは起きないだろうと答えました。
「残念ですが、何の変哲もないただの廃墟ですね。強い霊気は感じられません」
「ああ、そうですか。まあ、その辺は演出でなんとかしますよ」
ディレクターは頭を掻きながら苦笑いしていました。その後、撮影一行は廃墟の建物内へ入っていきました。
「もし何か起きた時には無線機か携帯でお呼びするので、ひとまず先生は待機していてください」
スタッフにそう言われ、私は各タレントのマネージャー達と一緒にバスの車内に残りました。

撮影は三時間近くにおよんだでしょうか、一行が戻ったのは午後九時くらいだったと憶えています。その間、呼び出される事態は一度もなかったので、何も起きずに良かったと胸を撫で下ろしていると、メインキャストの女性タレントが両脇をスタッフに抱えられ、おぼつかない足取りで車内へ乗り込んで来るのが見えました。顔色は真っ青、目も虚ろな状態でした。どうしたのですかとディレクターさんに訊ねると「ついさっき、出口の近くでいきなり倒れて意識を失ったんです。先生をお呼びしようかと迷ったのですが、もう撮影は終わっていたのでそのまま戻ってきました」とのことでした。「この子、普段から貧血気味でして、たぶん今回もそれだと思いますが、念のために見て上げてくれませんか」とマネージャーにも頼まれ、さっそく彼女の前にしゃがみ込みました。
「大丈夫ですか?」
「急に気持ち悪くなって、ひどいめまいに襲われちゃって。どうなっちゃってんだろう、私」
不安がる本人を落ち着かせながら、応急処置として背中越しに念を入れました。すると顔色に血の気が戻ってきたので、手をかざして霊視したところ、水神系の蛇霊数体に憑依されていることが分かりました。念のため撮影したばかりのVTRも見せていただいたのですが、その霊は建物内で拾ったものではありませんでした。恐怖による感情の昂ぶりがきっかけとなり、元々彼女に憑いていたモノが表面に浮上してきたのです。
「ここではなくて別のどこかで蛇の霊を拾ってしまったようなのですが、何か心当たりはございますか?」
「へ、蛇ですか?この手の番組はこの子、初めてだしなぁ。ここ一ヶ月のロケでそういう変な場所へ行ったことはないと思います」
私の問いにマネージャーは首を傾げるばかり。また本人も「何も心当たりはありません」とのことで、原因の分からないまま、簡略的な形で除霊の儀式をさせていただきました。その際、蛇霊本体にも「あなたはどこから来て、何がきっかけでこの女性に取り憑いたのか」と訊ねてみたのですが、先方はこちらの問い掛けを無視したまま、拍子抜けするほどあっさりと女性タレントの体内から出て行きました。

しばらくしてその時の番組が実際に放送されました。ただ、私はその内容はそっちのけで、ひたすらスタジオの出演者の方に目を奪われていました。そこには司会役の男性タレントの他に何人かのゲストがいたのですが、そのうちの一人の中堅女性タレントの身体に巨大な蛇霊が絡みついていたのです。件の新人女性タレントに憑いていた霊と全く同じ波動を発していたので、同族の存在であるとすぐ分かりました。さらに驚いたことに新人タレント自体にも祓ったはずの小さな蛇霊が再び取り憑き、彼女の生気を吸い取って、中堅タレントに憑いた巨大な蛇霊へと送り込んでいる様子が見えました。

その後、将来有望とされていた新人タレントはいつの間にかテレビ画面から消え去りました。一方、中堅の女性タレントの方は、今や視聴者の好感度が高いベテランとして活躍しています。つまり彼女は他のタレントたちから奪った生気や人気運を糧として、現在の地位までのし上がってきたというわけです。私は以前からニュース以外のテレビ番組はほとんど見ていなかったのですが、この一件をきっかけにとくにタレントが大勢出てくるバラエティ番組を見るのが嫌になりました。芸能界というのは想像以上に恐ろしい場所であるようです。