リレー怪談~占い百物語~

一人が話を語り終えると、その知り合いがお題を引き継いでまた語るリレー方式の百物語。そしてそれを語るのは、いずれも現役の占い師たちです。もちろん、ここでご紹介する怪奇談の全ては、彼らが実際に体験した実話ばかり。

第4回

責任取ってよ

霊能館公開

25歳の時に占いの道へ入りました。専門は西洋占星術です。一時はよく当たるというありがたい評判をいただいて、テレビのローカル番組で占いコーナーの監修をしたり、スピリチュアル系の女性向け啓発本なども何冊か出版したりして相応の収入に恵まれていました。しかし結婚と出産を経て育児に時間を取られるようになり、さらに共同経営していた占い館を廃業するなど色々ありまして、30歳からの5年間は休業状態。久々に現役復帰したのはつい一昨年のことです。現在は占術スクールの講師業と、自宅の一室を使った予約制鑑定とで細々とやっています。そんな私がつい最近、ある生徒さんとの関わりで遭遇した不気味な出来事について書き記したいと思います。

当人の名前は仮に松本恵美さんとしておきます。彼女は30代前半のシングルマザーで、昨年の春から私が講師をしている占星術のクラスに顔を出していました。独身時代の数年間、OL兼業の占い師として活動していた経歴があり、子供が小学生になって手が掛からなくなったので、再び占いに関わる仕事をするためにスクール通いを始めたと言っていました。少し前まで自分も似たような事情で仕事から遠ざかっていたこともあり、毎回顔を合わせているうちにどちらからともなく親しくなり、授業の終了後に連れ立ってお茶を飲みに行ったり、たまには食事をしたりという友達のような関係になったのですが、そんな彼女がある日、唐突に打ち明け話をしてきたのです。
「恭子先生、じつは私、ちょっと困ったことがあって」
1ヶ月ほど前にアルバイトで電話占いの仕事を始めたところ、その鑑定客の1人が昼夜の区別なく家電にクレーム電話を掛けてくるようになったのだと、恵美さんは憔悴した顔付きで漏らしました。
「生年月日を聞きましたから、それが嘘でなければ相手の年齢は27歳です。最初、その女の子から片想いの悩みを相談されて、運気の良い時期だから思い切って告白してみたらどうかとアドバイスしたんです。そうしたら数日後にまた指名してきて、言われた通りに告白したら相手に断られた。責任を取れって」
「まあ、こういう仕事をやっていると、そういうクレームもたまにあるわよね。でもなんでその人、あなたの家の電話番号が分かったの」
「それはこっちが聞きたいくらいです。もちろんリアルの知り合いじゃないし、当人に訊ねてもはぐらかすだけで教えてくれないし。気味悪くなって着信拒否したら、今度は公衆電話やら別の番号やらから掛けてくるようになってもうイタチごっこ状態なんです。同居している実家の親にも迷惑掛けちゃってるし、本当にどうしたら良いか途方に暮れちゃって……」

警察に相談した方が良いのではないかと言うと、恵美さんは即座に首を横に振りました。客と揉め事を起こしたことを電話占いの会社に知られたら、せっかく苦労して見つけた占いの仕事を失うことになってしまう、というのです。確かにそれも一理あるので他の解決策を考えたのですが、いっこうに良い案が浮かばず、思い切って自分が一肌脱ごうと決心しました。
「1度そのクレーマーとさ、私が話してみようか」
「え、恭子先生が?」
「うん。こういうことは案外、第三者が間に入った方が穏便に解決するような気がするのよね。それにどうして占い師のプライベート情報が漏れたのか、同業者として私も知りたいの」

さっそくその日の晩、彼女の家へ行きました。ご両親に挨拶した後、リビングで電話が来るのを待っていたところ、午後の10時を過ぎた頃になって呼び出し音が鳴り響きました。
「きっとあの女です」
受話器を取ろうとする恵美さんを制して、代わりに私が電話に出ました。
「はい、もしもし」
「あれ?あんた誰」
「松本さんの友人で、私も占い師をしております」
そう言うと数秒の沈黙の後、うんざりしたような溜息が響きました。
「まあ、誰でもいいや。当人から話は聞いてるんでしょう。あんたでも良いから責任取ってよ」
「その責任を取るとは、つまりどうしろと」
「馬鹿か、おまえ。カレと私が付き合えるようにするってことに決まってるじゃんっ」
ヒステリックで乱暴な口調に気圧されながらも、何とか平静を保って話を続けました。
「なるほど責任ですか。でもその前に、こちらにもお訊きしたいことがあるのですが」
「なんだよ」
「そもそも、あなたはどんな方法でこの電話番号をお知りになったのですか。興信所でもお使いになったとか?」
すると電話の向こうで女がゲラゲラと笑い出し、そのまま通話が途切れました。すかさずコールバックしてみると、「この電話番号は現在、使われておりません」という自動アナウンスが流れ、受話器を耳に当てたまま呆然となりました。

すると今度は子供の泣き声が響き、血相を変えた恵美さんがリビングを飛び出していきました。あわててその背中を追いかけていくと、パジャマ姿の息子さんが廊下で泣きじゃくっていたのです。
「タカシ、どうしたの!」
「オバケ!部屋にオバケが出た!」
息子さんの話では、誰かに頬を叩かれて目を覚ましたら、真っ白い顔をした女が自分を睨んでいたと……。しかし、廊下の突き当たりにある母子の寝室には誰もいませんでした。

その後すぐ、恵美さんは親御さんに頼んで実家の電話番号を変えてもらいました。念のため自分のスマホのナンバーも変更し、それ以降はあの不可解なクレーム電話に悩まされることはなくなったそうです。事の発端となった電話占いの会社には鑑定の申込みに当たって登録された女の住所と氏名の記録が残っているはずですが、頼んだところで教えてもらえるはずもなく、またそれを知りたいという気持ちもまるで湧きません。つまらない好奇心に駆られてそんなことを調べたら、恐ろしいことになるのは目に見えているからです。

生きている女なのか、それともすでにこの世の者ではない存在なのか。その辺のところはもうどうでも良いのですが、恵美さんと息子さんについてはまだ心配が残るので、近々、知り合いの霊能者に頼んでお祓いを受けさせるつもりです。