リレー怪談~占い百物語~

一人が話を語り終えると、その知り合いがお題を引き継いでまた語るリレー方式の百物語。そしてそれを語るのは、いずれも現役の占い師たちです。もちろん、ここでご紹介する怪奇談の全ては、彼らが実際に体験した実話ばかり。

第7回

仏間の隠し部屋

霊能館公開

実家の家業を引き継いで個人商店の経営をする傍ら、中部地方を拠点とする占い師専門のマネージメント事務所に籍を置き、イベントなどを中心に活動しています。

20代の頃はオカルトやスピリチュアル関係の編集ライターとして東京で働いていたのですが、取材をきっかけに九星気学の大家と知り合う機会がありまして、その人の勧めで気学の方位術や風水術などを学び始め、この道に足を踏み入れました。

現在、事務所を通しての仕事の他、ホームページを持って個人でも面談鑑定の仕事をやっているのですが、ある時にこれもまた人の縁で名古屋にある建設会社の社長と知り合いになり、そこが手掛けた物件などで客側から家相や風水を見て欲しいという要請があった際に現地へ出張して鑑定をしています。これからお話しするのも、そこの会社を通して来た案件で起きた出来事です。

場所は関西でも名の知られた高級住宅街の一画でした。依頼者は飲食関連の事業を営む壮年男性で、築20年ほどの豪邸を買って一部改築した上で移りすんだところ、本人と家族に深刻なトラブルが立て続けに起こるようになったとのことでした。それでもしかしたら家相が悪いのではないかと不安になって、旧知の知り合いである名古屋の社長を通し、私に依頼が舞い込んできたという次第です。

事前に家の図面を見せてもらったのですが、それを見た限りでは、鬼門、裏鬼門、水回り、階段やガスレンジの位置など、どの角度から見ても重大な差し障りは見当たらず、
「これは家相の問題ではありません」
とはっきり申し上げたのですが、依頼者はそれでも納得せず、仕方なく直接拝見しに向かったのです。

問題の家屋に到着すると、そこに住む5人の家族に出迎えられました。依頼者の60代男性とその奥さん、そして20代の長男夫婦と2歳になる幼児。依頼者もその子息もわざわざ会社を休んで私の到着を待っていたとのことで、それほど切迫した状況にあるのかと、こちらも一挙に緊張してしまいました。しかも全員の顔が、一様に土気色で萎んだ感じで、明るく洒落た豪邸の中で彼らの周囲の空気だけがどんよりと澱んでいるようでした。

「家に移りすんでから1週間も経たないうちに、まずカミさんが足を滑らせて階段から落ちて1ヶ月ほど入院しました。次はその退院も待たずに息子の嫁が車の事故でまた入院ですわ。で、それからしばらく経った頃に今度は私が定期検診で引っ掛かって緊急手術。幸い早期の発見やったんで命は助かったものの、胃の半分を切り取る羽目になりました。で、今度は息子が……」
引っ越してからの数年間、家族に起きたトラブル、事故、病気などの数々を滔々と聞かされて、当初の緊張は得体の知れぬ恐怖感に変わりました。
(今までよく人死にが出なかったですね。しかし、これってもう家相とか占い師とかいうレベルの話じゃないと思うのですが……)
そんな言葉が喉元まで出掛かりました。

「あの、こんなことを聞くのは僭越かもしれませんが、ここから引っ越すという選択肢はなかったのですか?」
恐る恐るそう訊ねると、依頼者の顔色がいっそう暗くなり、
「そうしたいのは山々なんやけど、今は無理なんですわ。じつは、私の会社の方が微妙な感じでね、ここを売って運転資金に充てれば良いと息子は言うんですが、そないなことしても焼け石に水やし、第一そうなったら狭いマンション部屋くらいにしか住めんようになるし」
と、さっぱり分からない理屈をこねるばかり。私は霊感の類はほとんどないのですが、この時ばかりは
「この人、家に取り憑かれているんじゃないか」
と思いました。

気を取り直して家屋周辺の風水も見たのですが、問題となるような凶相は見つからず……。それどころか、お金持ちが集まって住むだけあって、土地自体の風水的な位相はむしろ高いのです。

こうなるとやはり屋内の何かが問題なのか、それとも家屋や土地とは関係ないこの一族自体の因縁が絡んでいるのか、どうにも判断がつきかねるまま再び家の内部を見て回りました。

2階建ての各部屋を隅々まで探り、ようやく小さな異変に気づきました。場所は1階の廊下の奥の八畳間。仏間として使われており、奥に立派な仏壇が置かれていました。その仏壇のすぐ後ろの大きな柱の横に、隠し扉と思われる取っ手らしきものが付いていたのです。
「ここは何ですか?」
「ああ、それね。リフォームの時に大工にも言われたんやけど、引き戸の向こう側に一畳ほどのスペースがあるんですわ。たぶん、前の持ち主が茶道具や掛け軸なんかを仕舞うのに使こうてたんやないかなと」
私は依頼者に断りを入れて、その扉を開きました。懐中電灯で空間の隅々まで照らし出し、四方に張られた杉板を軽く叩いたり押したりしているうちに、床面の1枚が動くことが分かったのです。それを持ち上げると、さらに床下まで続く深い隙間があり、丸くて白い壷のような物が並んでいるのが見えました。
(これ、もしかして骨壺……!!)

その後は警察を呼ぶ騒ぎとなりました。床下から出てきたのは、身元不明の遺骨が入った3つの壷とその他もろもろ。血痕が飛び散った白絹の着物やら、小さな子供が書いたデタラメな絵やら、顔の部分だけ切り抜かれた人物の写真やら、いずれも気味の悪い代物ばかり。まるでホラー映画の1シーンのようでした。

警察ではとりあえず事件性はないと判断したそうですが、遺骨が放置されているのに事件性がないというのもおかしな話で、よくよく関係者に聞いてみると、その家の前の持ち主は半年前に引っ越し先で一家心中していることが分かりました。つまり調べようにもその術がなかったというわけです。

問題の家屋は今でもあります。恐ろしいことに依頼者の一家はまだそこに住んでいるんです。ギブアップした私の代わりに、どこかから祈祷師のような人物を呼んで入念にお祓いをしてもらったとのことで、安心して住み続けていたようですが、つい先月、依頼者の奥さんが急死したという話を聞きました。また息子さん夫婦は離婚して、子供は奥さんの実家が引き取り、建坪が100坪近くの豪邸に父親と息子の2人暮らしだそうです。

これも人づてに聞いた話ですが、時折その2人が骸骨のような顔で夜中に徘徊している姿を、近所の人たちが見掛けるそうです。