男と女のドロドロ心霊体験

二十年以上にわたり、様々な悩み相談に携わってきたベテラン女性霊能者が、男女関係にまつわる不思議な話や恐怖の霊体験をご披露します。この世に男と女がいる限り、愛憎のトラブルが尽きることはありません。

第1回

元カノの写真

霊能館公開

今から四年ほど前、知人を介してある女性の悩み相談に乗ったことがあります。彼女の名前は優香さん。当時は都内の大手企業に勤めるキャリアウーマンでした。
「最近、付き合い始めた男性がいるのですが、彼のマンションに泊まりに行くようになってから、おかしなことが起き始めたんです。」
そう言うと彼女は、自らが遭遇した異常な出来事について話し始めました。

例えば深夜、彼の部屋のベッドで一緒に寝ていると突然、後ろから誰かに髪の毛を引っ張られたり、洗面所でメイクを直している最中、鏡越しに女の人影が横切るのが見えたり、さらにはリビングでくつろいでいたりキッチンで料理をしたりしているなどに、目に見えない誰かに耳許へ囁きかけられることが頻繁にある、と。
「それは女性の声ですか?」
「はい。私と同じ年頃の若い女の声です。」
「どんなことを囁きかけてくるのですか?」
「具体的な言葉はその時々によって違うのですが、常に恨みや憎しみに溢れています。『彼と別れろ』とか『死んでしまえ』とか。囁かれる時、その女の息遣いまで耳に感じるんです。私、もう恐ろしくて……。」
「そのことはもう彼に話しましたか?」
「もちろん話しました。だけど彼、幽霊とかそういう類の物を一切信じない人なんです。それでそのことも一笑に付されてしまって、仕事で疲れて幻覚でも見たのだろうと言われました。」
「すると彼自身は、自分の部屋にいる女の霊の存在には気付いていないと?」
「はい、そうみたいです。もしかしたら、とぼけているのかもしれませんけど。」
「なるほど。お話をお聞きする限りでは、彼が貴女の前に付き合っていた女性の生き霊の可能性が高いですね。」
私がそう指摘する彼女は深く頷き、バッグから一枚の写真を取り出しました。優香さんに見せられた写真は、恋人の男性と細面の美しい女性が一緒に写っている写真でした。背景には海と砂浜が広がっており、旅行中に撮影されたものと思われました。
「悪いとは思ったんですが、彼のPCの中身を探してこの画像を見つけたんです。データの日付は三年前くらいですから、彼が私の前に付き合っていた女性に間違いないと思います。」
そして今、自分に起きていることの原因がこの女性によるものなのかどうかを判断して欲しい、と優香さんは言いました。

私はさっそく問題の写真を霊視してみました。明るい笑顔の美人であるにもかかわらず、女性の画像が発する波動は非常に暗く、怨念に満ち溢れていました。そのマイナスエネルギーの強さは、ただの写真であるにもかかわらずこちらの背筋を寒くさせるほどでした。ただおかしなことに、その女性の過去のビジョンを探ることはまったくできなかったのです。一種の結界というか、念のバリアが入念に張り巡らされており、何度トライしてみてもまるで読み取れないのです。結局、女性と優香さんの恋人との関係性は一切分からず、私は首を傾げながら霊視を終えました。優香さんにもそのことを正直に伝えたところ、彼女は
「この写真、彼に直接突きつけてみます。」
と言いました。それでは相手の男性との仲がまずくなってしまうと止めたのですが、
「彼が過去の女性関係について一切話してくれないことに以前から不信感を抱いていました。この際ですから、破局覚悟で白状させます。」
とのことでした。

それから数週間後、再び優香さんに会うことになったのですが、その顔は青ざめ、ふくよかだった外見は見る影もなくやつれ果てていました。喫茶店で会うなり彼女は私の手を握り、ポロポロと涙を流し始めたのです。私はてっきり彼を問い詰めて関係が破局し、そのショックで憔悴しているのだと思ったのですが、彼女から聞いた真相はまるで違っていました。彼が以前に付き合っていた女性は、同じ会社に勤める同僚だったそうです。相手の地方転属がきっかけになって疎遠となり、五年ほど前に別れたとか。その後、優香さんと出会うまで彼には特定の恋人はいなかったということでした。そのときに彼は、会社の創立記念パーティで写された写真を優香さんに見せ、「これがその子だよ」と教えてくれたのですが、集合写真の女性の顔は優香さんが持っている写真に写っていた人物とはまるで別人でした。優香さんは(この人、まだ私に嘘をついている)と思い、彼のPCから探し出した例の画像を突きつけました。するとその途端、彼の表情が曇り、やがてワナワナと震え始めたそうです。
「こんな写真、撮った覚えがない!しかもこの女……俺のお袋にそっくりじゃないか……。」
その母親は、彼が子供の頃に自殺したそうです。カルト的な新興宗教にのめり込み、それを夫である彼の父親に咎められて離婚を切り出され、衝動的に鉄道自殺を図ったのだとか。

事のあらましを話し終えると優香さんは、また泣き出しました。
「彼とはもう別れたのですが、まだあの女の声が耳許に囁きかけてくるんです。以前は彼の部屋だけで起きていたのに、今では私の部屋でも会社でも、しじゅうひっきりなしに女の声が聞こえてきます。先生、何とかしてください!」
私は唖然としながらも、その場で救急手当て的な浄霊を行いました。そして
「あらためてきちんとした儀式を執り行うので、明日にでも私の家へ来てください。」
と言っていったん彼女と別れました。しかし翌日、約束の時間に優香さんが私の家に訪れることはなく、携帯電話も不通になっていました。

その後、最初に彼女を紹介してきた知人に事情を訊いてみたところ、優香さんはすでに会社を退職し、住んでいたマンションも引き払ってしまったそうです。彼女が今、どこで何をしているのか。私もその知人もまったく知りません。まさに理不尽としか言いようがない、不気味な女性霊の祟りの話でした。

【教訓】
恋人の元カノや元カレについて詮索するのは、ほどほどにするべきです。過去を語りたがらない相手から、無理矢理に話を聞き出してもろくなことはありません。