男と女のドロドロ心霊体験

二十年以上にわたり、様々な悩み相談に携わってきたベテラン女性霊能者が、男女関係にまつわる不思議な話や恐怖の霊体験をご披露します。この世に男と女がいる限り、愛憎のトラブルが尽きることはありません。

第4回

「お母さんといっしょ」

霊能館公開

以前、私は某結婚相談所の特別アドバイザーとして、男女会員のカウンセリングに携わっていたことがあります。霊能者あるいはスピチュアルカウンセラーでは、相手によっては胡散臭い印象を与えかねないという会社側の配慮で、当時はメンタルアドバイザーという肩書きを使っていました。実際、心理療法士の資格を持っているので決して詐称していたわけではありません。それで客側からリクエストがあった時、直にお会いして結婚に関する様々な相談に乗っていたのです。

ほとんどの相談者は女性でした。最初のうち、向こうは単なる心理カウンセラーだと思って悩みを打ち明けてくるのですが、そのうちに私が霊能者であることが分かる勘の良い人もいらっしゃいました。今回ご紹介するお話の直接の体験者である、丸の内OLの澄麗さん(仮名)もまたその一人でした。

彼女は三十代に入った頃から婚活を始め、結婚相談所に入会してマッチングされた相手とまめに会う傍ら、他の団体が主催する様々なイベントやパーティなどにも積極的に参加していたそうです。しかし三年近くを費やしても思うような相手と出会えず、精神的にかなり落ち込んでいました。
「運命の相手なんて本当にいるんでしょうか。私、このままずっと独り身で終わるんじゃないかと思うようになりました」
そう言ってうつむく彼女を懸命に励まして元気づけたのですが、何と間もなくしてその本人から、ようやく理想の伴侶と巡り会えたという報せを受けました。

澄麗さんはすぐにその相手と同棲生活を始めました。もちろん結婚前提です。相手の男性の名は光雄さん(仮名)。T大卒のエンジニアで、当時は一部上場の電機メーカーで副部長職を務めていました。学歴、職業、年収の三条件に加えて容姿も優れた四高の人で、澄麗さんにとってはまさに白馬の王子だったわけです。しかしその幸せは長くは続きませんでした。

最初に変事が起きたその日、午後十時を回っても光雄さんは帰らず、先に食事を終えた澄麗さんは独り寂しくテレビを見ていました。やがてそこにチャイムの音が。彼が帰ってきたかと思い、ドアスコープも見ずに玄関の扉を開けると、そこには身綺麗に着飾った女性が立っていたのです。年の頃は四十代の半ば。優しげな雰囲気を湛えた清楚な美女だったそうです。
「どなたでしょうか」
見知らぬ人物の突然の訪問に戸惑う澄麗さんに対して、その女性は思いもよらぬ言葉を発しました。
「はじめまして。光雄の母でございます」
「えっ!お母様?」
「はい。今、光雄はおりますでしょうか」
光雄さんの両親は彼の出身地である福井県に住んでいることもあり、まだ顔合わせを済ませてはいませんでした。また、彼のお父さんとは電話で何度か話したことがあるものの、お母さんの声は一度も聞いたことがなく、写真を見せてもらったこともなかったので、本当にその女性がそうなのか確信が持てませんでした。
「どう見ても若すぎるんですよ。彼はもう三十三歳なのに、母親と名乗るその人は四十代の前半にしか見えませんでした。でも彼には聞かされていなかったけれど義理の母親ということもありますから、素直に家へ招き入れました」
女性はリビングのソファーに腰を掛けると、二人の新居の様子を見回しながら済まなそうに言いました。
「こんな夜分に突然ごめんなさい。今日、東京の実家に用事があって出てきたものだから、ぜひあなたにもご挨拶をしておきたいと思って」
「お父様はご一緒じゃないのですか」
「じつは私、都内の出身なの。実家が今もあってね、年に数回、家の両親に会いに独りで上京するのよ」
澄麗さんが光雄さんから何も聞いていないことをそれとなく伝えると、
「何度か携帯に電話したのだけど出てくれなくて。それで留守電にメッセージを入れてメールも送ったの」
「とても忙しい人ですから、私に伝え損ねたのかもしれません」
「そうかもしれないわね」
そんなとりとめのない会話を交わしているうちに再びチャイムが鳴り、今度は光雄さんが帰宅。玄関まで出迎えた澄麗さんが彼と一緒にリビングへ戻ると、
「本当に信じられないことなんですが、いつの間にか姿が消えていたんです。出したばかりの紅茶のカップの端に口紅の跡が付いていたので、あれは絶対に幻覚じゃありません」

澄麗さんは今起きたばかりの出来事を、ありのまま話しました。しかし、光雄さんは全く取り合ってはくれず、自分のスマホを突きつけてくると、
「ほら、君が言っていた着信もメールも入ってないだろう。どうしてこんな悪戯をするんだ!」
と怒りだしてしまったのです。それでもなお澄麗さんが食い下がるので、しまいには実家の両親に電話を掛けたそうです。
「タブレットのテレビ電話機能を使って、向こうのお母さんの顔を見ながら話しました。全然、違う人でした」
その日を境に光雄さんとの関係がぎくしゃくし始め、同棲生活はわずか三ヶ月で破綻。直後に澄麗さんとお会いしたのですが、意外にもその表情はさっぱりとしていました。
「別れて正解でした。考えてみればあれだけ条件の揃った男性が結婚できずに相談所に登録しているなんて、その時点で疑いを持つべきだったんですよね」
「それは具体的にどういうこと?」
「今のお母さん、やはり後妻だったんです。実の母親は彼が高校生の時に病気で亡くなっていて、生前の写真を見せてもらったらまさにあの女性でした」
「息子の奥さんになる人の顔が見たくて、この世に現れたということでしょうか」
「違います。警告しに来たんです。光雄に近づくなって」
「どうしてそう思うの?」
「あの夜から毎晩、あの女の人が私の枕元に立つようになったんですよ、片手に包丁を握って。その姿は最後まで彼には見えませんでしたけど」
そんな澄麗さんが彼と別れる決心をしたのは、クロゼットの奥に隠されていた小さな箱を見つけた時だったそうです。
「中に骨壺が入っていたんです。どうやって手に入れたのかは分かりませんが、たぶんアレ、実のお母さんの遺骨です。私がそのことを言ったら彼、今まで見せたことのないような恐ろしい表情を浮かべていました」

【教訓】
三高、四高の高スペック男子にも、思わぬ落とし穴が存在する。結婚を決める際は相手の性格はもとより、その母親との関係性を冷静に観察するべし。もし、わずかでもマザコンの気があるようなら、思い切って別れるべきかも。